こんにちは。ノグッチャンです。

もう年度末ですね。
皆さんお忙しいとは思いますが、頑張って乗り切っていきましょう!

さて、今回のテーマは、
『小さな試料でも熱拡散率測定は可能か?』 です。

このテーマを選んだきっかけは、
「もっと小さな試料で熱拡散率測定をしたい。」
というお客さまの声でした。
この要望になんとか応えたいというのが、出発点です。



熱拡散率測定には、「サーモウェーブアナライザTA」を使用します。
http://www.bethel-thermal.jp/specification/01/index.html

上記リンクページ内の「測定条件」を見ると、
試料サイズに、最小: 10 × 10 × 0.015 [mm]
とあります。

その理由の一つに、試料台があります。

試料台の最小の穴径がφ9mmなので、
それ以下の小さなサイズの試料の場合、穴から試料が落下してしまいます。
これでは、試料を設置することができません。

小さな試料をTAに設置(NGの場合)



何とか解決できないものかと、以下の実験を行いました。

試料台の穴を塞ぐために、「ラップ」を使用します。
「ラップ」は、「サランラップ」や「クレラップ」などの、
私たちの生活で(おもにキッチンで)よく使われる、あの「ラップ」です。
https://ja.wikipedia.org/wiki食品用ラップフィルム/


試料台_ラップを貼り付けた状態


試料台にラップを貼付した様子。
念のため、耐熱性に優れた「カプトンテープ」を使用して貼り付けました。

さて、この「ラップ」を貼付した試料台。
使い物になるのでしょうか?

この状態で、試料を設置して熱拡散率測定をおこない、
ラップが熱拡散率測定に与える影響を調べてみることにします。


まずは、小さな試料を測定する前に、
大きい試料(□50mm)の熱物性を測定をして
ラップが熱拡散率測定に与える影響を見てみましょう。

測定試料は、Ag, Cu, Moの3種類です。



測定結果は・・・

測定試料 サイズ 熱拡散率 [×10-6m2s-1] 文献値との差
TA実測値 文献値
Ag 50×50mm 174 174 0.0%
Cu 116 117 ▲0.85%
Mo 54.4 54.3 0.18%
※ 文献値は、熱物性ハンドブックによる。
※ 測定方向は垂直方向とした 。



全ての試料で、文献値に近い値を得ることができました。

この結果から、上記物性間の「垂直方向の測定」であれば、
ラップの影響はないと推測することができます。



次は、いよいよ当初の目的である
小さい試料(□5mmのCu)の熱拡散率測定をおこないます。


ラップ上に試料を設置して、測定を開始します。

試料台_ラップ貼付・試料設置後



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!!!


なんと。

レーザー照射開始後すぐに、
試料台に貼り付けていたラップが溶けて、穴が開いてしまいました。 (+o+)

試料台_ラップ貼り付け・ラップ溶解後


前回と違って、試料が小さくなった分、逃げられる熱が少なくなり
試料の温度が上昇してしまったようです。


では、レーザ出力を控えめにして再挑戦です。

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今度は測定できました。

測定結果は・・・
116 [×10-6m2s-1] と、文献値に近い値となりました。


測定試料 サイズ レーザ強度
[mW]
熱拡散率
[×10-6m2s-1]
文献値との差
TA実測値 文献値
Cu 50×50mm 1,500 116 117 ▲0.85%
5×5mm 100 116 117 ▲0.85%
※ 文献値は、熱物性ハンドブックによる。
※ 測定方向は垂直方向とした 。



ラップ・・・ 意外と使えるヤツかもしれません。
測定時のレーザ出力に注意すれば、ですが。

まだまだ実験段階ではありますが、
いつの日かお客さまへ、ラップではない正規の形で提供できるよう
試行錯誤を重ねてまいります。

今後にご期待ください。


(著:ノグッチャン)