こんにちは。テツです。

『熱拡散率の測定において、黒化膜があたえる影響を検証する』
というテーマでお送りします。

熱ブログを毎回読んでいただいている方は、
それってノグッチャンがシリーズでやってるやつだ! とお気づきだと思います。
今回は、ノグッチャンには内緒(?)で、番外編を。

ノグッチャンのとは少し趣向を変えて、黒化膜を薄くしたときの影響を調べてみました。

タンタル(Ta)と銅(Cu)で検証したように、黒化膜を厚くすると
熱拡散率の測定値に影響が出てしまうことは既にわかっています。
(熱拡散率が高い試料では、実際の値より低く見積もられてしまう。など)

◆ 銅(Cu)の場合
http://blog.thermal-measurement.info/archives/52008454.html
◆ タンタル(Ta)の場合
http://blog.thermal-measurement.info/archives/52023450.html



それなら黒化膜を薄くすれば、正しい熱拡散率の値が得られるのでは・・・?!


さっそく実験してみましょう。



用意した試料は、下表の2通り。
 
材質
グラファイトスプレーの吹き付け回数
[回]
サンプルA
銅(Cu)
1
サンプルB
銅(Cu)
3

当社では、黒化膜はグラファイトスプレーを使用して付けています。
黒化膜の厚みは、吹き付け回数でコントロールします。
今回は、1回の場合と3回の場合の2通りで比較しました。

黒化処理



・・・


では、面内方向の熱拡散率を測定してみましょう。
(※熱拡散率の測定に使用した装置は、サーモウェーブアナライザTA3です。)


測定結果は・・・
 
材質
グラファイトスプレーの吹き付け回数
[回]
熱拡散率
[×10-6m2s-1]
サンプルA
銅(Cu)
1
113.6
サンプルB
銅(Cu)
3
112.4


3回吹き付けしたサンプルBが、1回吹き付けのサンプルAよりも約1%程度低くなりましたが、
これは測定誤差の範囲内で、有意差は見られません。


本当に1回の吹き付けで十分なのか?
別の観点からも見てみましょう。


測定結果の振幅を見ると・・・

<サンプルA(1回吹き付け)_測定結果>
calc_1
 (クリックで拡大表示)



<サンプルB(3回吹き付け)_測定結果>
calc_2
 (クリックで拡大表示)



1回吹き付けのサンプルAの測定結果を見ると、振幅が大きくうねっています。
これでは正しく測定できたとは言えません。

3回吹き付けのサンプルBの測定結果では、振幅がなめらかに減衰しています。
正常なデータと言えます。



なぜこのような結果になったのか。

測定の方法に答えがありそうです。

測定概念_距離変化法

面内方向の測定は、検出点を移動しながら各点でデータを取ります。
検出点の黒化の状態で放射率が変化し、振幅には大きく影響が出ます。


実際に試料表面を光学顕微鏡で観察した画面を見てみましょう。

1回塗りのサンプルAの試料表面画像(100倍)です。
dgf_1
塗料の斑が良くわかります。
塗料のある点では振幅が大きくなり、塗料のない点では振幅が小さくなるため、
熱拡散率の測定では、振幅に異常値(うねり)が出てしまいました。

次は、3回塗りのサンプルBの試料表面画像(100倍)です。
dgf_2
銅の表面も見えていますが、ほとんどが黒化膜に覆われています。


■ 結論
 ̄ ̄ ̄ ̄
黒化膜は薄いほうが良いのですが、ムラになってしまうと正しい測定ができません。
薄く数回に分けて吹き付けし、均一に塗布する必要があります。

セラミックス・ダイヤモンド・樹脂の一部・赤外線を透過する材料では、
レーザの透過を防ぐために、ついつい黒化膜を厚めに付けてしまいがちです。

その場合は、スパッタリングで金属膜を蒸着した後に、
グラファイトスプレーで薄く黒化膜を付けたほうが良いかもしれません。


(著:テツ)