どうもご無沙汰しております。
ハドソン研究所の「カトちゃん」です。
今回は、『高熱伝導シートの性能確認実験』というお題で、
実験の内容と結果をお伝えします。
今回の実験のために、高熱伝導シート(公称 50[W/m・K])を用意しました。
これは、誰でも購入できる一般的なものです。
高熱伝導シートの公称スペックはコチラ
↓↓↓
―――――――――――――――――
・サイズ: 30mm×30mm×0.2mm
・熱伝導率:50[W/m・K]
―――――――――――――――――
ベテルの熱物性測定装置「サーモウェーブアナライザTA3」で
測定できるのは「熱拡散率」なので、
まずは熱伝導率(公称スペック値)から、熱拡散率を予想する必要があります。
<参考>
熱拡散率(wiki): http://ja.wikipedia.org/wiki/温度拡散率
熱伝導率(wiki): http://ja.wikipedia.org/wiki/熱伝導率
熱伝導率と熱拡散率は、次式の関係があります。
※ 熱伝導率 = 熱拡散率 × 比熱 × 密度
この実験にあたって、ベテル内で比熱と密度を測定しました。
比熱と密度の測定値は、下記の通り。
――――――――――――――――
◆ 比熱:0.829 [J/g・deg]
◆ 密度:2.45 [g/cm3]
――――――――――――――――
上記の測定値を使って、想定される熱拡散率を計算すると・・・
50(熱伝導率)÷ 0.829(比熱)÷ 2.45(密度)= 24.57(熱拡散率)
本当に公称スペックを満たしているならば、
高熱伝導シートの熱拡散率は、約 25 [×10-6m2s-1] になるはずです。
参考までに、この熱拡散率は、金属タンタル(Ta)とほぼ同等です。
※ タンタルの熱拡散率は、24.6 [×10-6m2s-1]。
(参照:新編 熱物性ハンドブック)
では、サーモウェーブアナライザTA3を使用して、実測してみます。
本当に、このスペック(50[W/m・K])を満たしているのでしょうか?
さっそく検証してみます。
・・・と、その前に。
公称スペック値の 熱伝導率:50[W/m・K] は、どの方向の熱伝導率なのか?
機能性材料、特に今回のような高熱伝導シートでは、
平板を静置した状態での、厚さ(Z)方向と面内(XY)方向とでは、
まったく熱伝導率が異なります。
この関係を「熱的異方性」といい、
「熱的異方性」の、XYZ方向の熱伝導率をうまく組み合わせることで、
より有効な放熱ができることになります。
今回使用している高熱伝導シートの公称スペックには
どの方向の熱伝導率なのか記載がありません。
ただ、使用用途には
――――――――――――――――――――――――
◆ 放熱部と発熱体の間に入れて、熱を伝導させる。
――――――――――――――――――――――――
とだけ、記載がありました。
下図のような感じでしょうか?
上の図では、ヒートシンク(放熱部)とCPU(発熱体)の間に
高熱伝導シートをはさんで、冷却効果を高めています。
そうなると・・・
CPU(発熱体)からヒートシンク(放熱部)への熱伝導を良くしたいはずなので、
「面内方向よりも厚さ方向の熱伝導率が高い」と、多分に推測できます。
では、厚さ(Z)方向と面内(XY)方向の両方向の
熱拡散率を測定してみることにします。
※ X方向とY方向は、材料の性質上、同じであると想定できるので、
今回はあえてX方向のみの測定としました。
まずは、熱伝導率が高いと想定できる「厚さ(Z)方向」から
測定をおこないます。
.......測定中.......
結果は・・・
うーん。。。。(-_-;)
―――――――――――――――――――――
◇ 厚さ方向の熱拡散率: 5.2 [×10-6m2s-1]
―――――――――――――――――――――
熱伝導率に換算すると、10.6 [W/m・K] ぐらいです。
も、もしかすると面内(XY)方向が高いのか???
ということで、今度は面内(XY)方向の測定を行ってみます。
.......測定中.......
結果は・・・。
―――――――――――――――――――――
◇ 面内方向の熱拡散率: 1.2 [×10-6m2s-1]
―――――――――――――――――――――
熱伝導率に直すと、2.44 [W/m・K] ぐらいです。
50[W/m・K]には、ほど遠い値ですね・・・・
この実験には丸2日を費やし、繰り返し測定をおこないました。
たくさん再測定をしました。
でも、ほぼ同じ測定結果。
ですので、私カトちゃんのプライドにかけて、ベテル装置の信頼性にかけて、
測定結果に間違いはないはずです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
□ 結 論 □
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回の実験では、残念ながら、製品に記載されている値よりも、
実際に測定した値が大幅に低い、という結果になりました。
◆公称スペック値: 50 [W/m・K]
◇ベテル測定値:(厚さ方向) 10.6 [W/m・K]、(面内方向) 2.44 [W/m・K]
5分の1ぐらいの性能しか出ていません。
これには、いくつか理由が考えられます。
--------------------------------------------
・測定方法による違い
・測定装置による違い
・製造時のバッチの違い
・たまたま違うスペックの製品が手元に届いた?
--------------------------------------------
などが、(ちょっと無理矢理ですが)考えられる原因でしょうか。
ちなみに、この製品に関しては、
製造元のメーカーHPでも詳細なデータシートが見つからず、真相は藪の中です。
国外メーカー製とだけ付け加えておきます。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さらに、誤解がないように付け加えますと、
今回は残念な結果になりましたが、
市販されているほとんどの高熱伝導シートは、
公称スペック値の性能を、きちんと満たしているものばかりだと思われます。
特に、国内メーカさんの製品は、さすが日本製! と世界に胸を張れるものです。
(ベテルの過去の測定実績(シート数100種)からも、裏付けが取れています)
でも、国外メーカさんの製品ですと・・・
なかには、「ん?」というようなものもないわけではありません。
まじめに頑張っていらっしゃる国内メーカーさんが、
誤解を受けることがないよう、付け加えておきます。
以上
熱物性測定に関することで、気になることがありましたら、
わたくし「カトちゃん」またはベテルのヒーロー『熱物戦士☆サーモマン』まで
お問い合わせ下さい!
http://www.bethel-thermal.jp/contact/index.html
~~~~ カトちゃんからご連絡 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『テクノフロンティア2013』 (開催期間:7/17~7/19@東京ビックサイト)
http://www.bethel-thermal.jp/event/index.html
今年はなんと、私カトちゃんが展示担当の責任者に任命されました。
初めてなので、いろいろと戸惑いつつも、がんばって準備を進めています。
ここで紹介した「高熱伝導シートの熱物性評価」も、
パネル展示される予定です。
皆さまのご来場を、心よりお待ちしております。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(著:カトちゃん)